十文字川の戦い(前編)

「タカラッタカラッ」
馬の蹄の音だ。
マッチ軍は援軍として行こうとしていたが、フレイム軍は敗走、枯山城も落ちたことを知り、十文字川に陣を布いて、敗走したフレイム軍、ジョゼフ軍の行方を探っていた。
「来たか。わかったか?」
マッチ参謀は期待して聞く。
「はっ、フレイム軍もジョゼフ軍も、こちらに向かっているとのことです。」
伝令がマッチの期待に答えるように返事した。
「よし、ならばこちらから出迎えよう。」
伝令はなにも言われなくても、いつもの事のように身を引き、天幕から去って行った。

陣内では、兵達がフレイム将軍とジョゼフ将軍の帰還を、今か今かと待ちわびていた。マッチも、自分の師であるフレイムと、部下の兄、つまり、ジミーの兄、ジョゼフの帰りを期待していた。
夜、いつもは寂しいくらい殺意に満ちた、静かな夜なのに、今夜は殺意のない、むしろ活気にあふれた夜だった。フレイムとジョゼフが帰って来たからだ。この2人がいれば、セイクレッド軍なんて簡単に破れる、そう兵達は思っているからだ。
「フレイム将軍、セイクレッドはなかなか侮れません。あなた達も一度、敗走にまで追いやられたのですから、それぐらいは分かっていると思います。ですが、敗因の大部分は、将兵の少なさです。我々が合流したことにより、セイクレッド軍と我が軍の将兵の数は、わずかな差しかありません。ここ、十文字川はホーリーを守る要塞。ここで奴らを迎撃すれば、直に、ホーリーからの援軍も来るでしょうから、我々は必ず勝ちます。」
マッチ参謀は、長々と説明しながら励ました。ちなみに、ここにジョゼフはいない。
「わかっている。しかし、アーミィはなかなかの勇将だ。自軍が追撃を受け、士気が大いに低下しているというのに、捨てた陣に伏兵を置き、我が軍を挟撃したのだぞ。奴の策を見抜ければ、それほど楽な戦はないのだが・・・。」
敵軍の策が見破れるのなら、普通の戦なら楽だろう。
ジョゼフが遠慮がちに入ってきた。話を聞いていたのだろう。
「おお、ジョゼフ将軍。将軍は枯山城での敗因はなんだと思われますか?私はその場にいなかったもので。」
「枯山城ですか・・・余り思い出したくないのですが・・・話しましょう。・・・敵軍はなんの策も使わず、ただただ力押しという方法でした。敵には魔道士がいるらしく、門を軽々と開けてしまいました。兵士達の士気は無くなり、敵に斬られるだけとなってしまいました。私もなんとかこうして逃げ延びることが出来たのですが、城内は血だらけで・・・幾度となく戦場を駆け抜けてきた私ですら、恐怖を感じるほどでした。・・・これが枯山城の戦いで、私が見たものです。」
「ジョゼフ、他の兵士は逃げなかったのか?」
ジョゼフですら、恐怖を感じるほどの血の量と考えれば、逃げのびた兵士はいないだろうが、あえて、フレイムは聞いた。
「いません。」
「・・・しかし、枯山では策を使い、枯山城では力押しとは・・・なんとも読めんな。なあ、地味将軍。」
ジミーはマッチと共に、最初からいたが、たかが雑将軍が参加できる話ではないと悟ったため、会話に入らずにいたのだ。
「はい。・・・片方の指揮官は新米なのではないでしょうか?」
「確かに、そう聞いたことがある。だが、アーミィほどの者が、そんな新米に軍を任せるとは思えん。なぜだろうなか?」
「参謀、私はアーミィの策だと思うが?名も無い将に軍を持たせ、我々を油断させるつもりだったのだろう。ジョゼフ軍も、敵を弱将の率いる軍と油断したために負けたのだろう。侮れぬ敵だ。」
呂蒙の
策だ。フレイムは納得したように答えた。
「なるほど、そういう考えもあります。なんにせよ、敵軍が十文字川に迫って来ていることに変わりない。」
「その備えは?」
フレイムは聞くまでもないという顔で聞いた。マッチは慎重な人間だからだ。
「もちろん、あります。十文字川の北西に、何重もの柵を布いた第一陣。北東の第二陣には歩兵を主に編成した軍を配置したので、橋を落とされても、すぐに作り直せます。南西の第三陣にはバランスよく兵を編成し、南東の第四陣、つまり、本陣は騎兵中心に編成したので、敵がどこから来ても、すぐに遊撃可能です。・・・このような備えがあります。」
「なるほど。」
フレイムはマッチを何とも言えない表情で見た。気が利くのはいいが、征北軍の総大将は自分なのに・・・、全くの立ち場がないように思えたからだ。

歓迎

初戦

「ザッザッザ・・・」
セイド軍、アーミィ軍は既に合流し、十文字川に布陣したイモータル軍についての軍議をするところだ。
「セイド、よく枯山城を落とせたな。」
セイクレッド軍総大将(国王なのだから)、アーミィが感心したように聞いた。
「親父のおかげです。思ったよりも兵の被害が少なく、すぐに終わりました。」
セイドはソルジャーに視線を向けて、言った
「すぐに終わった?まさか全軍突撃なんて、無謀な真似したんじゃないだろうな?」
アーミィは賢い。ソルジャーの献策したものなんて、無謀なことばかりだろう、と予想はしている。
「はい。ですが、チェリーのおかげで門を簡単に開けられましたし、敵軍に士気は無かったので、被害は少ないです。」
「お前に軍を任せてよかった。敵が油断するからな。まあ、兵の被害が少ないのならいいが、今度同じことをして、被害が大きければ、もちろんのこと、罰を与える。」
「それは分かってます。」
「ならいい。しかし、チェリーとは誰のことだ?」
アーミィは一本城の戦いで、二人の兵が仲間になったのは知っているが、それがチェリーとアイリーンだと言うことは知らない。
「チェリーというのは、一本城の戦いで仲間になった二人の兵の内の一人です。魔法が使えるので、強いですよ。」
「強いか・・・チェリーというのは、お前にいつもついている者か?」
「はい。体の方は弱いので、私がついていないと・・・」
疲れた様子もなく、セイドが言った。
「ほう・・・では、この先もついていてやれ。魔道士など、珍しいことこの上ないからな。・・・さて、今回の軍議だが、なぜ俺とお前だけだと思う?」
「さあ?」
「無駄に時間を作らなくてもいいし、ソルジャーや、ギフトの考えなど、分かりきっているからだ。」
アーミィは呆れているようだ。
「ははは、言えてますね。・・・で、十文字川をどうやって占拠するんですか?」
セイドは同じく呆れているようだった。
セイドとアーミィは見た目では全く似ていないが、雰囲気はなんとなく似ている。
「十文字川には、敵軍が四つの陣に分かれて布陣している。一つずつ取っていけば、被害も少なくすむし、確実だ。ここを取れば、ホーリーは目前。増援が来る前に、十文字川を制圧すれば、苦難は無いだろう。」
「つまり、全速力で占拠していけと・・・?」
「そういうことだ。だが、どんな策が待ち受けているか分からない。フレイムとマッチ、ジミーのいる軍は、何故かかなり強い。ここも油断できんな。」
「はい。しかし、増援にゼロスが来たら、勝ち目は・・・?」
「ない。ゼロスの軍というだけで、敵兵の士気は高まる。ゼロスもかなりの強者だしな。」
敵に感心している余裕などないのだが・・・。
「では、この軍議はもう終わりですか?」
セイドは面倒なのでは無い。ギフトと手合わせをする予定なのだ。
「ああ、終わりでいいな。俺もちょうど、終わらせたかったところだ。」
国王が面倒くさがるのはおかしいが、アーミィも忙しいのである。
何日か経ち、セイクレッド軍は
十文字川へ向けて進軍を開始した。
イモータル軍はセイクレッド軍を今か今かと待ち構えている。
「セイクレッド軍が来たか・・・ホーリーからの援軍は?」
征北軍総大将、フレイムが伝令に聞いた。合流したとは言え、所詮は敗軍が合流したのだから、士気はほとんど無い。援軍が無ければ、敗北は間違いない。
「はっ。現在、プロット将軍補佐の部隊が来ていますが、歩兵部隊なので、すぐには来ません。」
ゼロス軍は戦支度などしていない。増援部隊として来ていたプロット隊しか、戦支度は出来ていないのだ。
「来ないか・・・参謀、第一陣はセイクレッドの攻撃に耐えられると思うか?」
「いや・・・第一陣はただの時間稼ぎ。その後、第二陣、第三陣で挟撃
して被害を与えます。それまでには歩兵でも本陣に着くでしょう。それまで耐えれば、我々の勝利です。」
伝令は既にいなくなっていた。伝えることは伝えたからだ。
「そうだが・・・たかがプロットの部隊で、我が軍が勝利に導かれると思うか?」
「もちろん、思いません。それも、ただの時間稼ぎとして利用すればいいのです。ゼロス将軍の軍が来るまでの。」
プロットの部隊をかなり卑下している。一応は強いのだが・・・。
「そうか。では、少しでも長く生きなければな。」
「フレイム将軍は大丈夫です。負けそうになれば、本陣に退いてください。そうすれば、なんとかなります。」
マッチは言った。
所変わって、第一陣。
「柵に隠れて矢を射ろ!」
将の声がした。もちろん、イモータル側の。

セイクレッド軍は柵があるので騎馬は使えず、歩兵だけなので苦戦していた。だが、槍兵が多いので柵を突き抜けて攻撃できた。・・・柵の間から槍で突き、倒したら進む。これを何度も繰り返しながら進軍していった。柵のずっと先の方には、弓兵が配置されており、近づくと矢を射られるのだが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに、進軍していった。
「くっ・・・なんて奴らだ。だが、第一陣が破られれば、全軍の士気が下がってしまう。なんとしても食い止めろ!」
将は命令した。マッチの「敵は強いだろうから、やられそうになったら無理をせず退け。」という命令を無視している。
第一陣の兵は結果的には退いたが、それは将が命からがら退いたからである。命令を無視したのだし、たいした時間稼ぎにもならずに。
「よく私の前に立っていられる。命令に従っていれば、再度、攻撃を仕掛けることが出来、敵の進軍を少しでも遅らせることができたというのに。」
マッチの言い方は皮肉だった。怒られている将は、情けない顔で、もう聞きたくない!、と言いたげだ。
「それは私の失態です。首をはねて償います。」
将は、死にたくない、という表情だが・・・。
「この戦力の少ないというのに、そなたに死なれては困る。この戦が終わったから、死んでもらいたい。」
余りうれしくないだろう。
「はっ。ありがとうございます。」
棒読みだ。
将は身を退き、天幕から消えていった。
「フレイム将軍、このまま敵軍の勢いが衰えなければ、どうなるのでしょうか?」
マッチは端の方にいたフレイムに言った。
「敗北以外に何も無い。それより、第二陣、第三陣による挟撃は大丈夫か?」
「はい。今のところは、ですが。」
セイクレッド軍へ戻ろう。
「よし、壊せ!」
アーミィが命令する。壊しているのは、第三陣へ続く橋。
橋は壊れたようだ。これで、第三陣の攻撃を受けずに済む。
「よし、ここには、敵の工作隊を撃破する部隊を置く。他は第二陣へ進軍せよ!」
挟撃されず、後方に気を使わずに済む。わずかな兵を置いておけば、後の兵は全員、第二陣へ攻撃できる。敵兵も相当強いというわけでもないので、第二陣も落とせるだろう。

ソルジャー、ギフトは第二陣への橋で暴れている。これで、敵の士気も低下し、退きぎみになっている。